PERSON

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自分らしさの原点

大島 拓矢

本社
第一営業局

荒川の川面に差す 夕日のごとくやわらかな人 職場で結成されたチームを活気ある集団にまとめる 荒川の川面に差す 夕日のごとくやわらかな人 職場で結成されたチームを活気ある集団にまとめる

人が集うことの価値

奥秩父を源流として東京湾に注ぐ一級河川の荒川は、埼玉県鴻巣市の御成橋付近では日本最大の川幅2.537mを誇る。
堤にはサイクリングやランニングを楽しむ人が行き交い、広大な河川敷に整備された野球用のグラウンドでは、広島カープに似た赤いユニフォームのチームと石川県の星稜高校に似た白地のユニフォームのチームが試合中だ。バットがボールを捉えた金属音が聞こえると同時に、打球の行方を追う歓声が交錯する。

試合の経過を確認するためにスコアボードに目をやる。序盤は白いチームが圧倒的にリード、赤いチームも終盤猛烈に追い上げている。しばらく試合の行方を観戦する。赤いチームは反撃するもわずかに及ばず、ゲームセットとなった。

今日この場所を訪れたのは、職場の同僚で結成された赤いユニフォームのチーム、その名も「歌舞伎町ゴールデンガイズ」で監督兼2番・セカンドを務める大島拓矢に話を聞くためだ。

「お待たせしました!」
道具の片付けもそこそこに、大島がこちらに歩み寄ってきた。少し上気した表情に熱戦の余韻が漂う。事前に伝え聞いていた「頼りがいがある」という職場での立場の上下を問わない人物評通りの柔らかい笑みを浮かべている。

会社の所在地から命名されたチームは、10年ほど前に結成された。各自が時間のあるときにバッティングセンターに通う程度で、チーム練習を定期的に行うことはない。勝利よりも楽しむことを目的としている。
毎年夏に仕事関係先の企業が参加して開催される野球大会「京王杯」で優勝し、目に焼き付くような赤が印象的な現在のユニフォームを会社にあつらえてもらった。

大島は入社して6年、チームに加わってほどなく、当時の監督であった上司からの指名で監督を引き継いで現在にいたる。
チームの要職である監督という立場について尋ねた。
「監督といっても、雑用係ですよ」と謙遜しながらも、笑みを絶やさず快活な口調で答えてくれる。
「皆のポジションや打順を決め、試合中は作戦を立てて攻撃の時はベンチからサインを送ったりもします。参加してくれたメンバー全員が出場できるように、選手交代のタイミングを考えたりもしますね。

普段は草野球関連の掲示板にこまめに目を通して対戦相手を探し、チームの代表者として対戦を申し込みます。特に気にするのは相手チームのレベルです。掲示板では対戦履歴なども確認します。やはり力量が拮抗している方が、お互いゲームを楽しめますから。
対戦が決まると、今度は連絡係として、メンバーに試合の日時や場所を伝達して同時にメンバーを集めます」
加えてチームの共有物であるユニフォームの管理、グラウンドの使用料やボール代などに充当される会費の徴収など、その仕事は多岐にわたる。

また、気心の知れていて連絡が取りやすい職場の同僚で結成されたチームとはいえ、苦労もある。
「急に試合が決まる場合もあり、そうした時はメンバーを集めるのが大変です。メンバーは皆、協力的ではあるのですが、それぞれの予定もありますし。以前試合までの時間があまりなく、ギリギリの人数しか集められなかった時に、交通事情で3人ほど集合に遅れたことがありました。開始寸前で人数は揃い、無事試合を行うことはできましたが、あの時は焦りましたね」
大島は苦労したエピソードを語りながら、どこか楽しげだ。
そうしたピンチを楽しむことができる理由に興味がわいた。野球をするためなら少々の困難も乗り越えることができる、それほどプレーすることを愛している、と勝手に想像してみる。しかし、続けて語られた言葉は意外なものだった。

「自分としては、監督業に専念したいです」
プレーすることを楽しみたくてチームに加わったのだろうが、マネージメントに集中したいというこの発言、自分個人の楽しみよりも、人の和のために役に立つことをしようという心構えが生来身に付いているのだろう。
「普段のチームの活動とは少し趣が異なるのですが、社内で男女問わず25名ほどのメンバーを集めて2チームに分け、本社のある新宿から近い下落合にグラウンドを借りて、仕事を終えてからナイターで試合をしたことがあったんです。結構盛り上がりましたね。なんていうか、とにかく楽しかったです」
人が集い、時間を共有することで生み出される楽しさの価値を大島は知り、大切に考えている。

「恵比寿天」のバランス感覚

大島の自分の生い立ちを聞くにつれ、集団とうまく関係を保つことができる資質の在り処が理解できてきた。
「兄弟の多い家庭に育ちました。一番下が21歳、6男1女の7人兄弟で、35歳(取材時)の私が長男です。7人いるうちの唯一の女性である妹を「弁天さま」になぞらえて、家族の中では「七福神」なんて言っています」
7人兄弟の長男である大島は、さしずめ七福神の並び順の筆頭とされる恵比寿天の役割であろうか。恵比寿天は商売の神であるが、手に持っている釣竿は「釣りして網せず」つまり一網打尽に釣果を求めるのでない、暴利をむさぼらない清い心を表すとされる。
大島と話していて感じたソフトな人当たりは、節度とバランス感覚の表れなのだろう。

出生率が1.5人を切った昨今は、家族が多いということが、テレビ番組のコンテンツとして成立する時代だ。そうした稀有な「大家族の日常」の只中で、長男として兄弟の成長を見守ってきた。
大島自身は早くに実家を出たが、兄弟間の良好な関係は現在も続き、いまでも都合が合えば酒食の席をともにする。時には兄弟の家庭を訪ね、甥っ子や姪っ子の遊び相手になるのも良い息抜きになるという。

兄弟皆が成人した今でも、年に1度、7月頃に大型の乗用車何台かに大量の荷物を積んで繰り出し、静岡・伊豆半島の下田にある親戚が経営する民宿に総勢18人ほどで3泊の旅行にでかけるのを楽しみにしている。下田の明媚な風光のもと海の幸に舌鼓を打ち、兄弟やその子供たちと日中は海水浴、夜には花火で大騒ぎする。
兄弟が多いことに由来する不都合について尋ねてみたが、「特に感じません、むしろ兄弟で助け合えて、良いことの方が多いです」と即座に返答された。兄弟が多いことは大島にとっての大きな財産なのだ。
現在独身である大島は、時には早くに家庭を築いた弟に、結婚して家庭を築いていくことの大変さを諭されることもあるという。兄弟とはいえ、目下の者からのそうした話に感心するところも多いという。
(下写真:久しぶりに兄弟7人が全員揃っての食事の席で。左列手前から2人めが大島)

立場の上下を問わないフラットな関係

「彼はアニキ肌というか、責任感があって頼りになる存在なんです」冒頭に記した同僚の言葉が甦ってきた。
職場で結成された野球チームをまとめるために、役職が様々なメンバーと円滑なコミュニケーションを図れるよう、大島は日頃からチームのメンバーとの距離感に気を配っている。
年齢や立場の上下を問わないフラットな人間関係の築き方は、兄弟7人を束ねる大島がずっと育んできた兄弟間のつながり方に通じる。
「現在、ピッチャーを任せられるメンバーが2人で、投手層が薄いと感じています。また、10人ほどいる若いメンバーを今後もっと増やしたいですね」
「歌舞伎町ゴールデンガイズ」を率いる立場として、多忙な中にも戦力分析と将来への展望を欠かさない。
近いうちには若い同僚に人心掌握の術を身につけてもらい、キャプテンを務めて欲しいと考えている。年齢の上下を問わない賑やかで活力のある集団、つまり自身の兄弟のような関係性を「歌舞伎町ゴールデンガイズ」、ひいては職場にも、もたらしたいと考えているのかもしれない。
話を聞き終えた頃、陽は傾きかけていた。さっきまで熱戦が繰り広げられていたグラウンドに人気は無い。荒川の川面に輝くオレンジを帯びた日差しは大島の語り口のようにソフトで温かだった。(了)

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